『お姫様は、愛する王子のキスで目を覚ますのです』
そろそろ夕飯の時間だ。
だが、いつもならその時間には必ず支度を手伝っているエステルがいない。
不思議に思ったユーリは、仲間達に彼女を呼んでくると告げて部屋に向かう。
まさか、何かあったとかじゃないだろうな。身体の調子が悪くなったとか。どっかでこけたとか。
どっかの誰かが部屋に不法侵入して身動きがとれない、とか。
普段は心配なんてあまりしないのに、あの少女の事となるとどんどん不安が頭に浮かぶ。
「…ほっとけない病、うつったか。俺」
彼女の持病。というか性格が。
自分の事を顧みない。他人の事ばかりを気にかける、優し過ぎる少女。
彼女の長所でもあり短所だ。自分の心配が絶えないのだから。
面倒事、嫌いだったはずなんだけど。
考えながら歩いていたら、いつの間にか部屋の前に到着していた。
ドアを2、3回叩いて中にいる彼女に声をかける。
しかし返事が返ってこない。
「おーい、あけちまうぞ」
女の子の部屋なのに失礼だ、とは思ったけれど言った通りにドアをあけた。
夕日が眩しくユーリを照らす。
ベットの上にエステルはいた。
横になり、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。彼女のすぐ側には分厚くて難しそうな本が置いてある。きっとこれを読んでいて睡魔に負けてしまったのだろう。
「……心配して損した」
気持ち良ーく寝やがって。俺の心配した気持ちを返せ。
ああ、勝手にやったことか。と自分につっこみを入れながら、エステルが眠っているベットへと近付く。
「………むにゃ……ふふっ」
エステルは寝言を言いながらにこにこしている。
「何笑ってんだ。ったく」
どんな夢見てんだよ。
幸せそうにしやがって。
そこに誰がいるんだ。
………俺は、いるのか?
いや、きっといるのはフレンだ。
そこまで考えて我にかえり、自分に溜め息が出た。というか呆れた。
阿呆らしい。俺は俺。フレンはフレンだ。
昔からそうやって考えていたのに。
何故彼女の夢の中にいるであろうフレンに腹を立たせる必要があるんだ。
頭の中でごちゃごちゃになった感情を振り払うように頭を横に振り、エステルの肩に手を置き軽く叩く。
だが彼女は深い眠りについているらしく、軽く叩くだけでは目を覚まさない。
ふと、悪戯心がうまれた。ただ起こすのはつまらない。ちょっと驚かしてやろう。
彼女の夢の中で彼女を笑わせている誰か。そいつが消えてしまうぐらい、驚かせてやる。
ベットに膝と手をついて、全体重を乗せる。
重量オーバーだと言うように、ぎしりとスプリングが鳴った。
下にいるエステルの頬にくっついた桃色の髪を手ではらう。
ふいに良い香りが鼻をかすめた。エステルの匂いだ。
彼女らしい、優しくて心が癒される香り。
それに誘われるように、エステルの顔に自分の顔を近付けた。
「……まだ、起きるなよ」
小さく呟くと、ユーリはエステルの少しだけあいている赤い唇にゆっくり自分の唇を重ねた。
夢を見ていました。
広い広い花畑で、走ったり歌を歌ったり花冠を作ったり。
一番嬉しいのは、ユーリと一緒だということ。
ユーリといると自然に笑顔になる。幸せだと感じる。
でも突然、草に混じっていた毒に侵され私はその場に倒れてしまう。まるでお伽話のお姫様のように。
控えめな足音が聞こえてくる。
それは聞き慣れたユーリのもので、きっと私を心配して来てくれたのだ。
彼が私の名前を呼ぶ声がする。
それと同時に、彼の顔がどんどん近づいてきて…
ああ本当にお伽話みたい。お姫様は、王子様のキスで毒が消えて目を覚ますのだ。
そこで夢は途切れ、目が覚めた。
「…………ん……」
重たい目を開けると、すぐそこに誰かの顔があった。黒くて長い髪に頬を撫でられくすぐったくて身じろぎする。
「……起きろよ、もう夕飯だぞ」
聞き慣れた、そう、夢の中でも聞いた声。
一気に頭が覚醒し、エステルは翠色の目をぱちくりさせる。
「ユー……リ?」
これは、夢の続き?
だってキスした後のように顔が近い。自然に頬が熱を持つ。
「やっと起きたな、エステル」
頬を赤く染め混乱するエステルを知ってか知らずか、くっと喉を鳴らして笑う。
その仕種も夢でやっていた。
今が夢の中なのか、現実なのかうまく判断出来ない。
「…あのっ、これは……」
「エステルが起きないから」
「く、口に何かしましたか…?」
ああやっぱり気付いてたか。
ユーリは嬉しいような後ろめたいような、複雑な感情を抱きながら苦笑いを浮かべた。
「…さあな」
「……夢の中のユーリは、キスしてくれました。王子様みたいに」
まだ夢の中にいるかのように、うっとりしながらユーリを見上げた。
ユーリはエステルの言葉に驚き、目を見開いて彼女を見下ろしている。
「……俺が、いたのか」
「は、はい。二人で花畑にいて、ユーリが笑っていて、私すごく幸せで…きゃっ」
思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
ユーリが突然、抱きしめるから。
エステルは彼の突発的な行動に、先程よりも顔を赤く染め慌てふためく。
「あのっ、ゆ、ユーリっ」
「………何だよ、消す必要なかったのか」
「え?消すって何を…?」
「こっちの話」
よくわからないけど、ユーリが安堵しているのが分かりエステルも息を吹いた。
一息付いたところで、抱きしめられている恥ずかしさが蘇ってくる。
「ユーリ、あの、そろそろ離してください」
「……んー、もうちょい」
「…ユーリって、本当は甘えん坊さんです?」
「どうかな」
「もう…」
また一つ溜め息をついて、彼の黒い綺麗な髪をゆっくり撫でた。
やわらかくて、指に絡まる感じが愛おしい。
「…なあ、さっきの」
「え?」
「幸せだって、本当か?」
「…っ!あ、えっと…は、い……」
恥ずかしい。違います、と否定してしまいたいぐらいだ。
でもそれは出来なかった。ユーリの顔が、あまりにも真剣だったから。
「…エステル、顔上げろ」
「…やっ…」
ユーリはエステルの顎を持ち顔を自分の方へ向かせる。
エステルは恥ずかしさから顔を両手で覆っている。
「キス、させてくれねぇの?」
少しトーンを落とした、低い声。心なしか落ち込んでいるように聞こえる。
恐る恐る手を退けると、口端を上げて笑うユーリの顔が見えた。
「…ユーリ、意地悪です」
「今の俺にとって最高の褒め言葉だな」
ふいに笑いが込み上げて、二人して笑う。
そしてどちらからともなく見つめ合い、エステルは目をゆっくり閉じた。
ユーリはエステルに唇をつける寸前に、仲間を待たせているのを思い出し、心の中で小さく謝罪をした。
遠くで彼らの叫んでいる声が、聞こえた気がした。
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エステルがユーリを起こしにいくか、ユーリがエステルを起こしにいくかで結構迷ったんですが・・・どっちかっていうとなさそうな「ユーリがエステルを起こしにいく」にしました。
ユーリは、つねにフレンに引け目を感じてる・・・んですよね?違った・・・?;
それで、エステルのことも譲っちゃいそうな気がするんだよなあ。
でもエステルに確信持てるようなことをぽーんと言われちゃって、もう我慢できなくなっちゃってフレンになんか渡せねえ!!とかなればいいよ!!!!!!(爆)
エステルはもうユーリすきすき光線でてればいい!!恋するおんなのこはかあいいよ(*´∀`)
このあとさんざん待たされてる仲間たちが怒って乗り込んでくればいい!
エステルとのちゅーに夢中で気づかなかったユーリはみんなが来たので珍しく慌てればいいwwwwwwエステルは顔真っ赤で放心状態wwwwww
リタはぎゃーぎゃー叫んでて、おっさんはリタを押さえながら「いやらしいいいww」って言ってればいい!!(レイリタw)←
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